日本レコード協会が2010年度の「音楽メディアユーザ実態調査」の結果を公表した。
調査によると、ユーザが音楽を楽しむために利用したCD以外のサービスとして、「YouTube」「ニコニコ動画」がそれぞれかなりの割合を占めた。それにもかかわらず、調査では「YouTubeやニコニコ動画は音楽購入の阻害要因」と分析されている。
■ 過半数が「YouTube」を支持! 「ニコニコ動画」支持も2割超え
同調査では、「過去半年間で音楽を聴いた」と答えた4377人を対象に、音楽を楽しむために利用したCD以外のサービス・商品の名前を挙げさせている。その調査によると、最も多かったのはYouTubeで56.7%。2位はテレビで40.8%、3位はカラオケBOXで37.8%、4位はFMラジオで37.7%、5位はニコニコ動画で23.6%となっている。
■ しかし「YouTube」「ニコニコ動画」は音楽の購入を阻害…?
一方で、過去半年間にYouTubeやニコニコ動画を含む無料動画配信サイトで音楽ファイルをダウンロードした人は全体の24%。ダウンロードした楽曲は平均32.6曲という結果が出ている。これに対して日本レコード協会が「プロモーション手段として動画配信サイトの役割は大きいが、一方で購入の阻害要因や違法ダウンロードのソースにもなっている」と分析したことが、インターネット上で大議論を呼んでいる。
■ 「購入阻害」は嘘? 動画サイトをきっかけに生まれたヒットは数えきれず
「YouTube」や「ニコニコ動画」は本当に音楽の購入を阻害しているのだろうか。調べていくと、とてもそうとは考えられない事実が浮き彫りとなる。大きな例を3つ挙げる。
(1) Perfume
今や大人気の女性3人組テクノポップユニット・Perfume。そのブレイクのきっかけは、「ニコニコ動画」などでPerfumeの楽曲と人気のゲーム「アイドルマスター」の楽曲をコラボレーションさせた動画が多数投稿され、注目を集めたことであると言われている。
この現象は、CDの売上が急増してオリコンで初のトップ10を果たした「ポリリズム」が発売される以前に、以下の記事で取り上げられている。
→ Perfume、「アイドルマスター」効果で人気急上昇 (From livedoor news)
(2) 「初音ミク」などボーカロイド作品
ボーカロイド「初音ミク」「鏡音リン」などに、ユーザが作曲した楽曲を歌わせる動画が、2007年秋頃から急速に注目を集めている。これらの楽曲は、「ニコニコ動画」にアクセスすれば、無料で視聴できるものばかりである。
しかし、そんな性質を持った楽曲を集めたアルバムが、オリコンのトップ10に続々ランクイン。なんと1位を獲得するものまで現れている。
ヒットの代表例は、2009年に発売されたsupercellの1stアルバム「supercell」である。収録曲は、当時「ニコニコ動画」で既に数百万回再生されていた「メルト」など、「ニコニコ動画」に行けば無料で視聴できる楽曲ばかりであった。しかし、このアルバムは発売一週間で5.6万枚を売り上げ、累積売上10.8万枚のヒットを記録した。
→ supercell feat.初音ミクはボーカロイド関連最高の週間4位、初動売上5万枚超え達成! (当サイト記事)
(3) ゴールデンボンバー
2010年、ビジュアル系(エア)バンドのゴールデンボンバーがブレイクした。「ニコニコ動画」に投稿された「女々しくて」のPVの奇抜なパフォーマンスや、自身の楽曲を「パクられる前に自らパクってみた」とメンバーが自らネタにして投稿した動画などが、視聴者の笑いを誘い、急速に人気を拡大した。
2009年末にはほとんど売れず知名度もそれほどだったゴールデンボンバーだが、2010年春にかけて「ニコニコ動画」で人気に火が付くと、夏に発売されたアルバムでオリコン上位入り。今現在では、シングル・アルバムともにトップ10入りするところまで成長している。
ゴールデンボンバーに関しては、レーベル側が「ニコニコ動画」への関連動画の投稿を事実上容認している。投稿された動画に「権利者に認可されています」という表記が付いたことからも明らかである。
→ ゴールデンボンバー「また君に番号を聞けなかった」が初日オリコンデイリー5位 前作の週間103位から大躍進確実に! (当サイト記事)
【一考察】「YouTube」や「ニコニコ動画」を “サービス” ではなく “インフラ” と考えて活用すべし
ここからは当サイトとしての、本問題に対する意見を述べたい。
「YouTube」「ニコニコ動画」を「音楽購入の阻害要因である」として排除してしまえば、上に挙げた3例のようなヒットは生まれない。
レコード協会の調査にもあるように、「YouTube」や「ニコニコ動画」は、「サービス」である。しかし、上で挙げたヒットの例から考えれば、これらをただ単に「サービス」というレイヤーで考えるのは、もう古いと言える。
サービス、プラットフォーム、インフラストラクチャ(インフラ)の各レイヤーで考えた時、確かにこれらは動画の試聴・投稿を行うためのソフトウェアを提供する「サービス」である。しかし、同時に音楽の購入を生むための立派な「インフラ」であることを意識しなければならない。
現在 「YouTube」「ニコニコ動画」を「音楽の購入を生むためのインフラ」として活用出来ていないメーカーや事務所が、非常に多いように思われる。これらを使えばヒットを生み出せる可能性があるのは、過去の例が証明している。
今回の調査を引用して言い換えれば、メーカーや事務所がこれらを活用出来ていない(あるいはしていない)結果が、違法あるいは無料のダウンロードだけを行うユーザを増やす結果になっていると言えなくもない。
「YouTube」「ニコニコ動画」を無料で使えるのは一般のネットユーザだけにとどまらず、メーカーや事務所も含まれる。
「YouTube」や「ニコニコ動画」を、よく考えずに悪として排除するのではなく、積極的に活用する道を考えなければ、時代遅れとして取り残されるだけである。レコード協会もそのように考えを改めていかなければ、何時まで経っても技術革新に追いつくことはできない。
関連サイト
・「YouTubeやニコ動が音楽購入の阻害要因にも」日本レコード協会が分析 (From Internet Watch)
関連記事
・11/02/18(金)付オリコンシングルデイリー:AKB48「桜の木になろう」4日目は売上回復! 自己最高記録更新そして90万枚突破へ前進! (AKB48の動画も「YouTube」のAKB48チャンネルで公開されている)
とにかくDLさせないために音質を下げるしかないですかねー・・・
レコード協会の見解と、管理人さんの意見の両方ともが的を射ていると思います。私もYouTubeできくようになってからCDは1枚も買わなくなりました…。しかし、ボーカロイドの件もそうですがAKBもYouTubeで人気を拡大しているようですよね。動画共有サイトは音楽界にとって諸刃の剣のようなものだと思います。
不思議なのが、YouTubeやニコニコ動画にてレーベルが公式動画としてアーティストのPVをアップすることも増えている中で、レコード協会のスタンスがそれに追い付いていない気がします。
言いたいことは全て管理人さんがおっしゃってますので、別の視点から。個人的な考察としては、リスナーの音楽に対する視野がやはり狭くなっているように思いますね。
YouTube・ニコニコ動画共に「○○は神」「○○っぽい」のような子供っぽいコメントが目につくことがあります。それが売上とどう関係するのか、疑問に持たれる方も多いと思いますが、狂信的にそのアーティスト”だけ”を聴き、中にはファンだからそのアーティストの曲は全部良い、そう考える人が少なからず増えてきているように思います。
逆に、音楽が多様化し過ぎて、現在カオス状態になっているような気がします。
また、ゴールデン帯にランキング番組がないというのも一つあると思います。
いきものがかりのありがとうがロングヒットしたのは、朝ドラを見る主婦層が大きいと思いますし、幅広い層が音楽を耳に出来る場がなくなっているのが衰退の原因としては多いのではないでしょうか。
YouTube・ニコニコ動画共に、悪と決め付けるのは悪いですが、かといって100%シロなわけでもありません。そこは、企業側の手腕で可能な限り有効利用してもらいたいですね。
商業的に使うなら、やはりYouTubeのほうが幅広い層に浸透するとは思います。
ニコニコ動画は、試聴層が限られる印象があり、コメントが流れてくる中には誹謗中傷もあったりするので、どちらかというと若い層向けに留まる気がしますね。
海外ではスーザン・ボイルやジャスティン・ビーバー、シャリースのように
Youtubeを経由してのヒットが続々と生まれています。
プロモーションの手段として、むしろレコード会社は積極的に活用すべきだと思います。
今の時代、音楽を聴く手段が多様化してきた中で、いつまでもCDに拘る必要もないと思います。
ただ、個人的な考えでは、日本でYoutubeを聴いて→CDを買うという流れになかなか行き着かないのは
シングル重視の傾向が根強いのもあると思います。1曲だけならYoutubeで聴くだけで満足という人は多いでしょう。
確かにその通りかもしれないですね。私自身も“曲がいいから”ではなく“この人が好きだから”という理由で曲を聴いたり、CDを買ったりします。でも、いま第一線にいる歌手の大半は少なくとも5年はやってきた人達ばかりだと思うし、仕方がないとも思います。AKBのCDが今あんなに売れているのも、結局は“曲がいいから”ではなく“彼女達が好きだから”なのでしょうし。