音楽配信の波に乗ろうが乗るまいが、結果的にCD売上は下がるだろうという予想

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迷宮ラブソング(初回限定盤)(DVD付)近年、iPhoneに代表されるスマートフォンの普及に伴い、音楽配信サービスの普及が拡大している。多くのアーティストが様々なサービスで自身の楽曲を配信し、「配信限定」シングルも登場している。
しかし、事務所によっては特定のサービスに対する配信を一切行っていないなど、「音楽配信への消極性」も未だ見られる。このような行動がもたらす結果を予想してみたい。



   例えば、ジャニーズの「嵐」はPC配信や着うたフル配信を行っていない(過去に限定配信のみ)。その理由は、CD売上を維持するための戦略と言われている。

   また、ソニー系のアーティストの楽曲はiTunes Storeでは配信されていない。その理由は、ソニーが自社の音楽端末「Walkman」を売るための戦略と言われている。

   これらは一見戦略的な行動だが、実際はこれらの行動によって失うものの方が多いのではないだろうかと考える。
   特に今回注目したいのは、音楽配信とCD売上の関係である。今までは音楽配信を開始することでCD売上が減ると考えられてきたが、最近の状況を考えると「音楽配信を開始しなければCDの売上が減る」ように見える。何故そうなってしまうのかという理由とともに、予想を立ててみた。ここでは、立場が分かりやすいiPhoneユーザの視点で考えてみたい。

(1) ユーザは配信の「お手軽さ」から抜け出せなくなる
   配信の醍醐味は「お手軽さ」である。いつでも、どこにいても、ボタン一つで楽曲を購入できる。一度この「お手軽さ」にハマり、購入を繰り返していくうちに、今までの「CDを買いに行って、封を開けて、PCのドライブに挿入する」という作業を煩雑に思うユーザが増えてくると思われる。

(2) ユーザは何でもかんでも配信で購入するようになる
   配信の「お手軽さ」にどっぷりとハマったユーザは、音楽なら何でも配信で購入するようになっていく。そして、例えばiPhoneユーザなら、徐々にiTunes Storeしか目に入らなくなっていく。ややきつい言い方をすると、iTunes Storeで配信していないアーティストの存在は、iPhoneユーザにとって徐々に忘れられていくのではないだろうか。

(3-a) 販売機会の喪失によってユーザからの注目度がダウンする
   最近の音楽の売上は携帯電話の売れ行きに左右されている。従って、携帯電話の売上動向を見ながら音楽配信を展開する必要がある。
   例えば、iPhone系の端末は大きなシェアを誇る。iTunes Storeに配信を展開しないのは、あまりにもったいないことである。iPhoneが売れれば売れるほど、自社のアーティストへの注目度が下がり、売上が下がっていくのは目に見えている。逆に、iTunes Storeにだけ配信して他のサービスに配信しないのも、もったいないことである。

(3-b) ユーザは特定のアーティストの楽曲だけCDから取り込まなくてはならないことを、面倒と感じるようになる
   例えば、iPhoneユーザがAKB48、EXILE、少女時代、いきものがかり、嵐の楽曲を一緒のプレイリストに入れておきたいと考える。AKB48、EXILE、少女時代の楽曲はiTunes Storeで配信されているが、いきものがかりと嵐の楽曲は配信されていない。手に入れるためには、いきものがかりの場合は別のサービスを利用し、嵐の場合はCDを買ってこなければならない。熱心なファンならまだしも、それほど熱心でもないユーザはその作業を面倒と感じ、徐々に「別に聴かなくてもいいか」と思うようになっていくのではないだろうか。

(4) ユーザは配信で手に入るものしか耳にしなくなり、CDが売れなくなるだけでなく、見向きもされなくなる
   これらの流れから、ユーザはやがて配信されている楽曲しか注目しなくなり、配信されていない楽曲は注目されなくなっていくだろう。そのうちユーザから「あのアーティストだけ配信していないのでわざわざCDを買いに行かなければならないのが面倒くさい」と言われ、配信をしなくてもCDの売上が下がっていくのではないだろうか。売上が配信に流れるのではなく、流れに乗る前に自爆してしまいかねないというわけである。そしてさらに、見向きもされなくなる危険性がある。

   ようするに、音楽配信の波に乗ろうが乗るまいが、CDの売上は下がっていくだろうし、波に乗らないとさらに多くのデメリットがあるだろうという予想である。

   また、特定のサービスだけで配信を行うことも、結果的にはアーティストにとってデメリットの方が多いと思われる。これまでフィーチャーフォン(ガラケー)を触っていたユーザの中には「よく調べもせずiPhoneを買ったら、西野カナの曲が聴けなくなってしまった」というような人が少なからずいるのではないだろうか。CD全盛時代にはなかった事態を防ぐためにも、音楽配信戦略は早々に見直されるべきである。

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